Embedded Insuranceを実現するための役割とテクノロジー
Embedded Insuranceの実現にあたっては、以下のような3つの不可欠な役割が存在します。
-
ブランド
顧客との直接的な接点をもち、アプリやウェブサービスを通じて保険以外のサービスを顧客に対して提供している事業者を指します。新たに保険機能を既存のサービスや製品にシームレスに統合するために、包括的な顧客体験を設計・提供する役割を担います。
-
ライセンスホルダー
法的に必要なライセンスを保有し、実際の保険商品を組成する役割を担います。Embedded Insuranceにおいてブランドのサービス上で提供される保険サービスは、実際には保険会社やMGAと呼ばれる一部の保険代理店によって運営されています。
-
イネイブラー
ブランドとライセンスホルダーをつなぐ中間役を担います。イネイブラーは、ブランドが独自のシステム開発やライセンス登録等の負担なく保険サービスを展開できるように、また、ライセンスホルダーが多くのブランドと容易に連携できるように、さまざまなテクノロジーを用いて後方支援しています。
Embedded Insuranceの本質は、従来ライセンスホルダー内部で行ってきた業務プロセスを、外部のブランドと緊密に連携しながら行うという点ですが、旧来のライセンスホルダーの業務システムでは複数の外部システムと連携して金融サービスを提供するということに困難を伴っていました。
例えば、業務システムが密結合でつくられており、外部システムとのデータ連携に要する開発工数が膨大となってしまう、といった課題があり、また、その開発が外部サービスとの連携毎に発生するため、個々のサービスの要求に応じたカスタマイズに対応することが現実的ではありませんでした。これらの障壁により、巨大なブランドとの連携のような多大な収益が見込める場合を除いては、ライセンスホルダーがシステム連携を前提としたパートナーシップを進めることが困難な状況でした。
こうした課題を解決してEmbedded Insuranceを実現するための新たなテクノロジーを提供するイネイブラーという役割を担うインシュアテック企業が増えています。 例えば、イネイブラーがもつ技術の一つにAPI(Application Programming Interface)というテクノロジーがあります。APIとは、異なるシステムやアプリケーション間でデータや機能を共有するための標準的なルールや手順を定めた連携の仕組みです。
Embedded Insuranceにおいては、ステークホルダー間で保険商品情報(保険料や補償内容、加入に必要な項目など)やユーザーの加入状況などのデータ連携が必要となります。Embedded Insuranceにおいては多くのステークホルダーが登場し、システムが複雑になってしまう傾向がありますが、APIを活用することで、異なるシステム間のデータ連携を標準化し、効率的かつ安全な通信を実現しています。
また、従来のシステム間連携の方式では、大量データの定期的な共有には適していたもののリアルタイムなデータ連携を行うには多大な時間とリソースが必要でしたが、APIの登場により、低コストで外部システムとのリアルタイム連携が可能となったことで、Embedded Insuranceの普及を後押ししています。
一方で、従来のライセンスホルダーが歴史のある基幹システムにおいてAPIを新たに開発することは非常に困難を伴うことから、保険業務に必要な機能、あるいは保険業務そのものまでワンストップで提供するインシュアテック企業が増えています。