はじめに
急速な経済発展と都市化の進行、さらには中間所得層の拡大という複数の要因が相まって、かつてないほどの成長を遂げている東南アジアの中古車市場。可処分所得の増加に伴い、人々の移動手段への需要が高まり、新車市場のみならず、中古車市場においても取引が活発化している状況だ。特に日本車はその耐久性と燃費性能の高さが消費者の間で高く評価され、同地域の中古車市場において圧倒的な存在感を放つ。しかしながら、近年ではEV(電気自動車)メーカーが積極的な価格戦略を打ち出し、市場構造にディスラプションをもたらしているため、競争環境は一層激化している。
市場概観:急成長する東南アジアの中古車市場
インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナムといった主要国では、中古車の取引件数が急増し、市場調査会社IMARCの報告によれば、東南アジアの中古車市場は2024年から2028年にかけて年平均成長率(CAGR)6.53%で拡大すると予測されている。ではその背景にはどのような要因が関係しているのだろうか(1)。
2025年現在、東南アジア地域には6億8000万人以上の人口が存在し(2)、その多くが中間所得層へと移行しつつある。無論この大きな経済的変化は全体として自動車所有率の上昇を後押しし、新車市場の活性化のみならず、中古車市場の拡大にも大きく寄与していると考えられている。しかしとりわけ中古車を選択する消費者増加の背景には、新車に対する高額な輸入税、都市部における生活費の上昇、また彼らの購買行動の変化などが大きく関係している。特に若年層を中心に中古車の需要が高まり、コストを抑えながらも高品質な車両を求める傾向が顕著である。加えて、金融・リースオプションの拡充によって、多くの消費者が中古車を購入しやすい環境が整備されつつある。
そして、新型コロナウイルスのパンデミックによるサプライチェーンの混乱も、中古車市場の成長を後押しした要因の一つである。コロナ禍においては、新車の生産遅延や半導体不足が深刻化し、新車供給が大幅に制限された。その結果、即時購入可能な中古車へと需要がシフトし、市場の重要性が改めて認識されるに至った。
日本と東南アジアの中古車市場の主な違い: 各国の中古車市場の特徴
日本の中古車市場は高度に組織化されているという特徴を持つ。例えば、市場全体として透明性が確保されていること、厳格に車両品質が管理されていること、そして標準化された再販価値の維持を可能にする堅牢な規制枠組みのもとで運営されていることなどが挙げられる。また、日本の消費者は比較的短いサイクルで車を買い替える傾向があり、その結果、状態の良好な中古車が安定的に市場へと供給されている。
一方、東南アジアの中古車市場は依然として断片化されており、正規ディーラーと非正規業者が混在する状況が続いている。オドメーター改ざん、事故歴の隠蔽、不透明な価格設定といった課題が根強く、市場の信頼性を損なう要因となってきた。
また、日本では自動車リサイクル業が高度に発展しており、廃車は効率的に再利用される仕組みが確立されているのに対し、東南アジアでは老朽化した高排出ガソリン車両の管理が大きな課題となっている。大気汚染や交通渋滞の深刻化を背景に、各国政府はより持続可能なモビリティ戦略の策定を迫られている。