2025年3月号(No.652)バックナンバー

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急成長する東南アジアの中古車市場:機会と課題

CARSOME GROUP PTE LTD
Head of Integration Strategy

田 承坤(チョン スンコン)

はじめに

急速な経済発展と都市化の進行、さらには中間所得層の拡大という複数の要因が相まって、かつてないほどの成長を遂げている東南アジアの中古車市場。可処分所得の増加に伴い、人々の移動手段への需要が高まり、新車市場のみならず、中古車市場においても取引が活発化している状況だ。特に日本車はその耐久性と燃費性能の高さが消費者の間で高く評価され、同地域の中古車市場において圧倒的な存在感を放つ。しかしながら、近年ではEV(電気自動車)メーカーが積極的な価格戦略を打ち出し、市場構造にディスラプションをもたらしているため、競争環境は一層激化している。

 

市場概観:急成長する東南アジアの中古車市場

インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナムといった主要国では、中古車の取引件数が急増し、市場調査会社IMARCの報告によれば、東南アジアの中古車市場は2024年から2028年にかけて年平均成長率(CAGR)6.53%で拡大すると予測されている。ではその背景にはどのような要因が関係しているのだろうか(1)。

2025年現在、東南アジア地域には6億8000万人以上の人口が存在し(2)、その多くが中間所得層へと移行しつつある。無論この大きな経済的変化は全体として自動車所有率の上昇を後押しし、新車市場の活性化のみならず、中古車市場の拡大にも大きく寄与していると考えられている。しかしとりわけ中古車を選択する消費者増加の背景には、新車に対する高額な輸入税、都市部における生活費の上昇、また彼らの購買行動の変化などが大きく関係している。特に若年層を中心に中古車の需要が高まり、コストを抑えながらも高品質な車両を求める傾向が顕著である。加えて、金融・リースオプションの拡充によって、多くの消費者が中古車を購入しやすい環境が整備されつつある。

そして、新型コロナウイルスのパンデミックによるサプライチェーンの混乱も、中古車市場の成長を後押しした要因の一つである。コロナ禍においては、新車の生産遅延や半導体不足が深刻化し、新車供給が大幅に制限された。その結果、即時購入可能な中古車へと需要がシフトし、市場の重要性が改めて認識されるに至った。

 

日本と東南アジアの中古車市場の主な違い: 各国の中古車市場の特徴

日本の中古車市場は高度に組織化されているという特徴を持つ。例えば、市場全体として透明性が確保されていること、厳格に車両品質が管理されていること、そして標準化された再販価値の維持を可能にする堅牢な規制枠組みのもとで運営されていることなどが挙げられる。また、日本の消費者は比較的短いサイクルで車を買い替える傾向があり、その結果、状態の良好な中古車が安定的に市場へと供給されている。

一方、東南アジアの中古車市場は依然として断片化されており、正規ディーラーと非正規業者が混在する状況が続いている。オドメーター改ざん、事故歴の隠蔽、不透明な価格設定といった課題が根強く、市場の信頼性を損なう要因となってきた。

また、日本では自動車リサイクル業が高度に発展しており、廃車は効率的に再利用される仕組みが確立されているのに対し、東南アジアでは老朽化した高排出ガソリン車両の管理が大きな課題となっている。大気汚染や交通渋滞の深刻化を背景に、各国政府はより持続可能なモビリティ戦略の策定を迫られている。

各国における中古車市場の発展状況および消費者行動には、以下のような特徴が見られる。

  • インドネシア:二輪車の普及率が圧倒的に高いが、都市部を中心に中古車市場が成長中。
  • タイ:ピックアップトラックの需要が高く、商業利用が盛んな市場。
  • マレーシア:東南アジアで最も高い自動車普及率を誇り、中古車市場も活発に推移。
  • ベトナム:市場はまだ発展途上であり、消費者は信頼性や品質に対して慎重な姿勢を示す。
  • シンガポール:車両所有コストが極めて高く、リースや短期利用の需要が強い。

 

消費者行動の変化:デジタルプラットフォームの台頭

従来、東南アジアの中古車市場においては、不透明な価格設定や車両履歴の不明確さ、規制のないディーラーの存在などが消費者の大きな懸念点となっていた。さらに、この地域のディーラーは依然として伝統的で昔ながらの営業スタイルを維持しており、小規模なディーラーがテントの下や野外で営業しているケースも少なくない。

しかし、デジタルプラットフォームの台頭により、こうした課題は大幅に改善されつつあり、市場環境が劇的な変化を遂げている。マッキンゼー・アンド・カンパニーの2023年の調査によれば、消費者の95%以上が自動車を購入する前にオンラインで情報収集や比較を行っているとされ(4)、今では手軽に見ることのできるオンライン自動車マーケットプレイスが主要な取引チャネルとなっていることがわかる。

また、大手eコマース企業も自動車販売分野へと進出し、物流ネットワークや決済プラットフォームを活用したシームレスな購入体験の提供に取り組んでいる。特に、一部の企業は「今すぐ購入、後で支払い」オプションや延長保証サービスを導入し、消費者の利便性と信頼性の向上を図っている。さらに、さまざまなソーシャルメディアプラットフォームも、個人販売者や独立系ディーラーが潜在的な購入者と直接つながる手段として活用され、デジタル自動車エコシステムの拡大に貢献している。

東南アジア最大の統合型自動車EコマースプラットフォームであるCARSOMEのような企業は、技術革新と戦略的パートナーシップを駆使し、東南アジアにおける中古車市場の変革を牽引している。特に、デジタルプラットフォームを活用した価格設定の透明化や、AIを用いた車両検査システムの導入により、消費者の信頼を獲得しながら市場での競争力を強化している。

競争の激化に伴い、各プラットフォームは単なる車両取引の提供にとどまらず、自動車関連付帯サービスの充実にも注力している。例えば、延長保証やメンテナンスパッケージ、下取りプログラムなどを導入することで、顧客満足度の向上を図るとともに、金融や保険サービスを統合したワンストップソリューションの提供が進められている。

このような付加価値サービスの充実により、各企業は市場での差別化を図りながら、消費者の信頼を獲得し、持続的な成長を実現している。CARSOMEでは2024年に累計販売台数50万台を突破し、その市場での影響力をさらに拡大している(5)。

 

競争の激化と新たなサービスの展開:CARSOMEが牽引する業界変革

2015年にマレーシアで確立されたCARSOMEは業界の変革を主導する存在として急速に台頭している。同社は、テクノロジーを駆使した価格設定アルゴリズムやAIを活用した車両評価システムの導入により、従来の中古車売買における課題を解決し、消費者の信頼を獲得しながら透明性と効率性の新たな基準を確立した。さらに、2021年には東南アジア最大の自動車売買仲介サイトiCarAsiaを買収し、東南アジア全域での市場支配力を一層強化している。

しかし競争の激化に伴って、CARSOMEを含む各企業は単なる車両売買にとどまらず、幅広いサービス展開を進めており、その種類はリスク保証から購入後のケアまで多岐にわたる。特にオンラインで中古車を購入する際、最大の懸念点の一つは、実車を確認する前に取引を行うことに伴うリスクである。主なリスクとして、以下のような問題が挙げられる。

 

  • 車両の実際の状態が期待と異なる(傷、欠陥、過去の修理歴の隠蔽など)
  • 走行距離メーターの改ざんや事故歴の不透明性
  • 不十分なアフターサービスや保証の欠如

 

こうしたリスクを軽減するため、多くのオンラインプラットフォームが、認定検査済みの中古車の提供、5日間の返品ポリシー、保証サービスの拡充、詳細な車両履歴レポートの提供など、消費者保護のための対策を強化している。

さらに延長保証、メンテナンスパッケージ、下取りプログラムといった包括的なアフターサービスを提供し、顧客の信頼とロイヤルティを向上させている。加えてファイナンスや保険サービスを統合することで、購入者と売却者双方にワンストップソリューションを提供し、競争が激しい市場において独自の差別化を図っている。

日本企業のための提携戦略と投資機会:東南アジア市場を狙う日本企業たち

東南アジアの中古車市場は、多国籍企業や日本の自動車メーカーからの投資が急増するなど、すでにグローバルな注目を集めている。特にこの地域では日本車のシェアが圧倒的に高く、トヨタ、ホンダ、日産といったメーカーは、中古車市場における影響力を一層強化する方策を模索している。

例えば、トヨタは東南アジア各国で「Toyota Certified Used Cars」プログラムを展開し、厳格な検査基準を満たした高品質な認定中古車を提供している。ホンダや日産も同様に、デジタルプラットフォームと連携し、下取りや認定中古車販売を促進する取り組みを強化している。

また、自動車メーカーだけでなく、ベンチャーキャピタルやグローバルテクノロジー投資家も、中古車市場のデジタル化に着目している。このように東南アジアの中古車市場は、その成長性の高さから海外投資家や日本企業にとって極めて魅力的な市場となりつつある。日本は長年にわたり、この地域への自動車輸出で優位性を保っているからこそ、今後は戦略的提携や投資を通じて市場のさらなる変革を主導する可能性を秘めているのではないだろうか。実際に、CARSOMEには日本の大手企業が投資しており、日本企業の関心の高さがうかがえる。

具体的に、日本企業は高い品質と信頼性を武器に、現地のオンラインプラットフォームと提携し、車両認証プログラムを強化することができる。また、現地ディーラーとの合弁事業を設立することで、サービスレベルの向上と販売網の拡大を図ることも可能だろう。

さらに、デジタル自動車ソリューションへの投資も、日本企業にとって有望な成長分野だ。前述の国内大手自動車メーカーは、AIを活用したデータ分析やブロックチェーン技術を用いた車両追跡システムの導入により、中古車取引の透明性と信頼性をより向上させることが期待されている。

日本の金融機関にとっても、東南アジアにおけるオートファイナンスの需要拡大は大きな機会をもたらすと考えられる。フィンテック企業との提携を通じて、柔軟な支払いプランやリースソリューション、サブスクリプション型の車両所有モデルを提供することで、新たな収益源の確保と市場拡大を進めることができるだろう。今年2月に、CARSOMEは、三菱UFJフィナンシャル・グループ傘下のJACCSと戦略的提携を締結し、CARSOMEの金融部門であるCARSOME Capitalへの出資を受け入れた(6)。この提携により、JACCSの国際的な金融ノウハウとCARSOMEのローカル市場での知見が融合し、十分な金融サービスを受けられていない層に向けた革新的なファイナンスソリューションの提供が加速すると期待される。

 

結論

東南アジアの中古車市場は、経済成長、デジタル化の進展、そして消費者の嗜好の変化により、今後さらなる拡大が期待される分野である。しかしその一方で、価格の不透明性、車両品質のばらつき、新興EVメーカーとの競争激化といった課題も依然として存在している。

このような市場環境において、テクノロジーの活用、戦略的提携の推進、そして消費者の信頼獲得を重視することが、地元企業および国際企業(特に日本の自動車メーカー)にとって成功の鍵となる。市場が成熟するにつれ、さらなるイノベーションと投資が求められ、東南アジアの中古車業界は、より透明性が高く、効率的で、消費者に優しいエコシステムへと進化していくであろう。

<訳注>

1  東南アジア中古車市場レポート2024-2032 https://www.imarcgroup.com/south-east-asia-used-car-market

2  ASEAN主要指標 2024年 https://www.aseanstats.org/wp-content/uploads/2024/12/AKF2024.v1.pdf

3  S&Pグローバルモビリティ 販売・生産データ2023年

4  マッキンゼー・アンド・カンパニーの2023年中古車マーケットの調査https://www.mckinsey.com/industries/automotive-and-assembly/our-insights/data-and-analytics-in-the-drivers-seat-of-the-used-car-market

5  CARSOMEについてhttps://www.carsome.my/about-us

6  プレスリリース:CARSOMEグループとJACCSがCARSOMEキャピタルにおける戦略的パートナーシップを発表、自動車金融に革命を起こすhttps://news.carsome.com/news/carsome-group-and-jaccs-announces-strategic-partnership-in-carsome-capital-to-revolutionize-auto-financing

目次

<特集>


<編集後記>


執筆者経歴

田 承坤(チョン スンコン)

東南アジア最大の統合型自動車EコマースプラットフォームCARSOMEの統合戦略部門責任者として、買収した企業を活用してシナジーを実現することに務めている。その前までは、同社で投資家との関係構築を通じて5億ドル以上の資金調達に貢献。

以前はP&Gでブランドマネジメントに従事し、食器用洗剤「JOY」のブランドに携わっていた。その他に、マーケティングや人材業の領域において、3社以上のスタートアップを立ち上げた。

東南アジアのスタートアップエコシステムに積極的に関与しており、マレーシア政府主催のアクセラレータープログラムでメンターを務めるほか、国際的な起業家ネットワークであるKairos Societyのグローバルフェローにも選出。

シンガポール国立大学卒業。韓国で生まれ、幼少期は0歳から10歳まで日本で育つ。その後、シンガポールへ移住。

soonkon.chun@carsome.com

シンガポール日本商工会議所

10 Shenton Way  #12-04/05 MAS Building  Singapore 079117
Tel : (65) 6221-0541 Fax : (65) 6225-6197
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